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耕さない田んぼの稲つくり(冬期湛水・不耕起移植栽培)を南阿蘇で実践しています。

 

〒869-1411 熊本県阿蘇郡南阿蘇村河陰4486-19

溢泌現象PHYSIOLOGY

溢泌現象
いっぴつげんしょう。稲つくりでは、苗つくりの過程でよく観られ、苗の生育活動が順調か否かを判断したり、灌水の時期を計る指標にしたりする。

第1葉期の苗に観られる溢泌現象。

◇植物は外気温が高いと蒸散活動で体温が上昇するのを防ぐ

 外気温が高いと体温が上昇するのを防ぐために、我々は汗をかくのと同様に、植物は葉や茎にある気孔が開き、植物の根から吸収された水が蒸気となって発散する。
 稲の苗つくりでの溢泌現象は早朝によく見られるが、蒸散活動は昼夜を問わず行われている。昼間に溢泌現象が観られないのは、太陽エネルギーにて乾いた大気に蒸散された水分が拡散されるためで、昼間でも曇りや雨の日は溢泌現象を観ることができる(このページに掲載した画像は、曇りの日に撮影したものである)。

◇耕さない田んぼで移植する苗と溢泌現象

 耕さない田んぼの稲つくりでは、成苗と呼ばれる葉数が5.5枚の大人の苗を移植する。
 田植機が導入される前、田んぼに人手で移植されていた苗、苗代で灌漑しながら育成させた苗は葉数が約5枚で、人手で田植えできる程の大きさ(1尺弱の草丈)まで育成した苗であったが、その苗が大人の苗、成苗である。

 現在の耕さない田んぼの稲つくりでは専用の田植機を使って田植えがなされているため、箱苗で大人の苗を育成させるとなると色々な問題がでてくる。
 田植機で移植する苗は、田植機が想定している苗の大きさにする必要があり、その大きさは約20cmと、本来の大人の苗の大きさよりも一回りも二回りも小さくしなければならない。
 また、稲は葉を1枚展開するのに7~12日ほど日数を要し、平均10日と仮定すると5枚の葉が展開するのに、50日以上の育苗期間が必要になってくる。
 コシヒカリの場合、GWあたりが田植えの時期になるため、3月上旬に種蒔きしないと、田植えまでに大人の苗を育成できないことになる。3月上旬は、春の足音が聞こえ始めるが、朝晩はまだまだ冷え込む時期で、南阿蘇は標高が高いことも有り、その時期、朝晩の冷え込みが軒並み氷点下を下回る。
 稲の苗は10℃を下回ると、風邪をひき、生長が数日止まってしまうため、夜温が10℃を下回らないようにハウスを早めに閉めたり、シートで苗を覆ったりする。

 実はそのような温度管理作業の中で、陽が昇った頃、覆ったシートを剥がすと溢泌現象で水玉を葉先に抱えた苗が目の前に広がるのである。彼らの生長が順調であることを確認できるだけでなく、数ミリだが昨日よりも生長していることを実感できる瞬間である。
 温度管理作業は大変だったり、面倒だったりするが、耕さない田んぼの稲つくりでは稲のお世話をできるのがこの時期に限定されるため貴重な時期だったり、手間暇をかけてきちんと温度管理すると、きちんとした苗に生育して応えてくれるため、手抜きできなくなる。
 この温度管理は2葉目の葉が展開するまでで、その後は、青空プール育苗に切り替えて育苗が続くが、青空の下で厳しい寒さに耐えながら生長を続ける中で、茎が太く、草丈が約20cmのずんぐりむっくりの苗になる。
 そのため、温度管理作業に翻弄されるのは2葉が展開するまでの約20日程度になる。

 溢泌現象はプール育苗に切り替わっても早朝には観察することができるが、氷点下を下回った朝に観られる溢泌現象は、稲のたくましい生命力を観られ、感じる瞬間である。

2013/03/11記